イーロン・マスク氏は7日、Xにドイツ国旗を添えて「ダンケ・シェーン!(Danke schön、ありがとう)」と投稿した。引用したのは、ドイツのシュテフェン・ビルガー交通相が、テスラの運転支援をEU全域で早く使えるよう尽力するとし、EUでまとまらなければドイツで何ができるかを話し合う必要があると述べた報道だ。
対象は「フル・セルフ・ドライビング(FSD、監督付き)」。名称は完全自動運転だが、法的には運転支援で、ハンドルを離してよい自動運転ではない。加速、ブレーキ、ハンドル操作を支援し、運転者は前方を見続け、最終的な制御責任を負う。
ビルガー交通相は6日、ベルリンで開かれた政策担当者向けの専門会議(Tagesspiegel Background主催)でこう述べた。EU全体での合意が望ましい。道路をより安全にできる可能性があるとして革新を支持する。まとまらなければ、ドイツとして何ができるかを話し合う必要がある。
速度は最大10%まで、名前も変える
交通省は同日、9月のテスラとの協議を踏まえた立場を公表した。技術の中身と、事故のとき誰が責任を負うかを話し合った結果、EUでの迅速な承認に向けて尽力するという。争点は速度だった。このシステムには、表示された制限速度を少し上回って走る設定がある。ドイツとテスラは、その上回りを最大10%までにすることで合意し、ドイツは欧州の手続きでもこの方針を建設的に見守る用意があると表明した。名称については、交通省自身が現在の「FSD」を「やや誤解を招く」と指摘し、テスラが「Tesla Assisted Driving(テスラ・アシスト・ドライビング)」への変更を提案した。車を制御する責任は運転者に100%残る、という前提は変えない。
オランダが認めているのに、ドイツでは使えない
このシステムは、オランダの道路交通当局(RDW)が4月、欧州で初めて暫定的に承認した。その後ベルギー、リトアニア、エストニア、デンマーク、スロベニア、チェコ、クロアチアも、それぞれ自国での使用を認め、承認国はオランダを含め8か国になった。ただし、ある国の承認は自動的に他国へ広がらない。ドイツはオランダの承認を、ドイツ国内でそのまま使ってよい許可としてはまだ受け入れておらず、連邦自動車庁(KBA)が独自に試験を進めている。ドイツの運転手が使うには、EU全体の決定か、ドイツ自身の承認が別途必要になる。売上面でも同じで、許可が出た国でしか有料機能として広げられない。
採決は12月、収益と株の見方の両方が動く
障害は、制限速度を超えて走る仕様そのものだ。スウェーデンは、制限速度の遵守が徹底されるまでEU全域の承認を見送るよう求め、フランスも7月に現行仕様の承認を見送った。交通安全の専門家や一部規制当局は、承認する前にその設定を外すべきだと主張する。6日のEU自動車技術委員会(TCMV)は協議のみで採決は行われず、次の機会は12月とされる。EU全域の承認には、加盟27か国のうち15か国以上、かつEU人口の65%以上を占める賛成が必要で、大国の反対が残ると通りにくい。ドイツの人口はEUの約18.6%にあたる。
ここが収益に効く。この運転支援は、車そのものとは別に売るソフトウェアで、欧州では5月以降、買い切りではなく月額課金のみとなっている。原価の大半は開発済みで、許可が出た市場に広げるほど粗利が乗りやすい。いま欧州は国ごとに許可が割れ、ドイツ、フランス、イタリア、スペインなど販売台数の多い国が抜けている。EU全域で通れば、すでに納車済みの車にも後から機能を載せられる。ただし対象は第4世代ハード(HW4)搭載車が中心で、旧世代のHW3は別の承認手続きが必要になりそうだ。逆に12月も流れれば、その売上は来年にずれる。
株の見方も変わる。テスラの評価は、いま売っている車の利益だけでは説明しにくい。市場が見ているのは、運転支援がどこまで広がり、その先の無人運転や配車につながるのかだ。今回のシステムは無人運転ではない。それでも欧州で公式に使えるかどうかは、「規制で止まった話」か「規制を越え始めた話」かの境目になる。ビルガー交通相が賛成に回り、独通信社dpaによれば、まとまらなければ国別の承認にも含みを持たせたことで、12月の票読みは変わる。
ドイツの論理は、わずかな超過を認めて承認を前に進め、最終責任は人間に残す、というものだ。批判側は、速度超過を最初から仕様として認めること自体が、安全だという主張を弱める、とみる。
次の節目は12月の委員会だ。見る点は三つある。ビルガー交通相が「最大10%までの速度超過」と名称変更をセットで押し切れるか。フランスやスウェーデンが速度超過への懸念を理由にさらに遅らせるか。EUがまとまらない場合、ドイツが国別承認に実際に踏み出すか。マスク氏の「ダンケ・シェーン」は、その最初の一歩への反応だ。


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