
サウジアラビアのエネルギー省は11日、国土を東西に貫く原油パイプラインが複数回の攻撃を受け、「予防措置」とし/見出して稼働を停止したと発表した。攻撃は10日午前に発生し、複数の負傷者も出ている。
このパイプラインは、イランによる事実上の封鎖が続くホルムズ海峡の代替ルートとして、2026年に入ってから世界の原油供給を支えるほぼ唯一の大規模インフラになっていた。停止は単なる一施設のトラブルではない。世界の石油市場と、中東依存が依然として高い日本経済への直接的な打撃となる。
なぜ東西パイプラインは「世界最重要インフラ」になったのか
東西パイプライン(ペトゥロライン)は、ペルシャ湾岸のアブカイクから紅海沿岸のヤンブーまで約1200キロを横断する。1980年代初頭、イラン・イラク戦争でホルムズ海峡のリスクが高まった際に建設された「保険」だ。
平時の輸送能力は日量500万バレル程度とされていたが、2026年2月以降の米・イスラエルとイランの軍事衝突でホルムズ海峡が事実上封鎖されると、NGLパイプラインを原油輸送に転用するなどして最大日量700万バレルまで引き上げられた。ヤンブー港からの輸出はピーク時に日量500万バレル前後に達し、国内製油所向け約200万バレルと合わせてフル稼働していた。
ホルムズ海峡を平時に通過する原油は日量約2000万バレル、世界消費の約2割に相当する。サウジとUAEの陸上パイプラインはこの穴を完全には埋められないが、「さらに深刻な危機を防いでいるほぼ唯一の存在」(ウォール・ストリート・ジャーナル)と評されてきた。実際、2026年春以降の原油価格急騰を一定程度抑えたのは、この迂回ルートの存在が大きい。
今回の攻撃でその生命線が止まった。衛星画像ではパイプライン沿いから黒煙が上がっているのが確認できる。

攻撃はイランの支援を受ける武装組織が活動するイラクから飛来したドローンとされ、サウジ側は現時点で報復を控え、イラク政府に再発防止の機会を与えるとしている。
紅海側も危うい——フーシ派の拡大と「二重封鎖」のリスク
問題はパイプラインだけではない。紅海の出口であるバブ・エル・マンデブ海峡周辺では、イエメンの親イラン武装組織フーシ派が港湾都市モカに続き、戦略拠点のペリム島を制圧したと報じられている。東西パイプラインで紅海側に運んだ原油を、さらにアジアや欧州へ運ぶにはこの海峡を通らざるを得ない。
米ニュースサイト・アクシオスによると、トランプ米大統領は10日、サウジにフーシ派攻撃を要請されたがこれを拒否した。米国はイラン情勢に注力し、直接介入する考えはないという。情報提供には応じる姿勢だ。
原油価格はすでに1バレル100ドル超の水準で推移しており、ホルムズとバブ・エル・マンデブの「二重封鎖」観測が強まり供給懸念が再燃すれば一段の上昇は避けられない。
日本へのインパクト——調達多角化は進んだが、コストとリスクは残る
日本は輸入原油の大半を中東に依存してきた。2026年の危機後、政府は米国産などを急増させ、7月時点で前年比ほぼ100%の調達回復を目指すなど多角化を進めた。しかしホルムズを通らないルートは航行日数が長く、パイプライン利用料も加わるため輸送費が割高になる。国内石油製品価格の上昇は構造的に避けにくい。
東西パイプラインの停止が長期化すれば、サウジ産原油の供給がさらに絞られ、代替調達の圧力が強まる。備蓄放出や米国産増加で当面の量は確保できても、価格転嫁とインフレ圧力は家計と企業を直撃する。調達経路の多様化の課題が、再び露呈する形だ。
サウジは「石油の中央銀行」と呼ばれ、予備能力を維持してきた。その能力を発揮する陸上ルートが攻撃対象になった事実は、中東エネルギーインフラの脆弱性を改めて示した。
米国が直接介入を避け、サウジも即時報復を控えるなか、事態は長期化する可能性がある。日本は「量の確保」だけでなく、「経路の安全保障」と「価格耐性」を本気で問われる局面に入った。東西パイプラインは単なるサウジ国内の施設ではない。2026年の世界が依存した、最後の大規模な迂回ルートだった。その停止は、エネルギー安全保障上の現実を突きつけている。


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