8月8日(金)に人気テレビ番組「ミヤネ屋」で、旧香川県立体育館の解体について放送される予定でしたが急遽延期となりました。議論となっている背景から核心に迫ります。
背景
旧香川県立体育館(高松市福岡町)は、1964年に世界的建築家・丹下健三によって設計され、和船を思わせる独特な外観から「船の体育館」として親しまれてきた。この建築は、ケーブルで屋根を吊る「つり屋根構造」を採用し、柱のない大空間を実現。国立代々木競技場(重要文化財)の原型ともいわれ、1966年にはBCS賞を受賞するなど、戦後日本を代表するモダニズム建築として国内外で高く評価されている。
しかし、老朽化と耐震性の問題が浮上。1998年の耐震診断で強度不足が指摘され、3度にわたる耐震改修工事の入札が不調に終わり、2014年に閉館。その後、倉庫として使用されていたが、香川県は2023年2月に解体方針を正式決定し、解体費用約10億円(当初は12億円と見積もられた)を予算計上した。
一方、新たな体育施設として「あなぶきアリーナ香川」が2025年2月に高松市サンポートに開業。旧体育館の解体は、文化的価値を巡る議論を巻き起こしている。
問題の核心
旧香川県立体育館をめぐる問題は、歴史的・文化的価値を持つ建築の保存と、老朽化や安全性の課題、さらには公費の使い道をどう考えるかという点で対立している。主な論点は以下の通り:
- 文化的価値と保存の意義
旧体育館は、丹下健三の代表作であり、戦後日本の建築史において重要な位置を占める。専門家は、プレストレス工法や地元職人によるコンクリート打放しの精巧な造形が、1960年代の日本の技術力と復興の象徴であると評価する。ハーバード大学大学院からも保存を求める嘆願書が提出されるなど、国際的にも注目されている。
市民や建築愛好者からは、「日本の宝」「世界的なモダニズム建築」として、クラウドファンディングやふるさと納税を活用した保存の提案も出ている。 - 解体の理由と県の立場
香川県は、耐震性の不足や天井落下の危険性を理由に、解体が「安全確保のためのやむを得ない判断」と主張。2025年8月7日には解体工事の入札公告(予定価格約9.2億円)を行った。県教育委員会は、民間からの具体的な活用提案がなく、建物の劣化が進む中、解体を先延ばしできないとしている。
また、解体後の土地活用計画が明確でない点も批判されており、「解体ありき」との声もある。 - 民間による再生案
2025年7月、民間団体「旧香川県立体育館再生委員会」が、県から建物と敷地を買い取るか借りる形で、自己資金で耐震補強や改修を行い、ホテルを中心とした「観光交流拠点」として再生する提案を発表。提案には、1階・2階をホテル、3階にブックラウンジやカフェ、アートスペースを設ける案と、1棟全体をホテルにする案の2つがあり、年間1~3億円の営業利益を見込む。初期投資は30~60億円と試算し、複数の不動産ファンドや企業(乃村工藝社など)が参画を検討している。
再生委員会は、解体費用の公費負担を避け、文化的価値を残しながら地域経済の活性化を図ると主張。しかし、県は「具体的な事業主体や計画が不明確」として協議に応じず、解体を進める方針を維持。
最近の動向
2025年7月23日:再生委員会が記者会見を開き、再生案を公表。県に解体手続きの延期と協議を要請。
2025年8月5日:県教育委員会が再生委員会の意向表明書に対し、「具体性不足」を理由に解体を進める回答を通知。
2025年8月7日:解体工事の入札公告が実施され、8月中にも事業者が決定する見込み。
署名活動:再生委員会や市民団体が、保存と再生を求める署名活動を開始。X上でも「アート県・香川の名にふさわしく保存を」との声が上がる。
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