いつものようにスーパーマーケットの食品売り場を歩き、今晩の食卓に並ぶ米を選ぶ。棚には「新之助」「青天の霹靂」「ゆめぴりか」といった国産のブランド米が並んでいる。その一つひとつに、日本の農家が丹精込めて育て上げた物語が詰まっている。これは、私たちにとってごく当たり前の、平和な日常の一コマです。
しかし、そのすぐそばで、私はある光景に足を止めました。通路の一角に、国産米とは対照的に、巨大な袋がうず高く積まれているのです。その正体は、アメリカ産米でした。この瞬間、米選びという日常的な行為が、単なる商品選択ではなく、日本の食料自給と国防という、国の根幹に関わる重大な問題の最前線であることに気づかされたのです。このスーパーの棚から見えた危機についてお伝えします。
日本の食卓を支える「国産米」の現実
議論の出発点として、まずは国産ブランド米がどのような価格で販売されているのかを具体的に見ていきましょう。
• 新潟県産 新之助: ¥5,198 (税込 ¥5,613)
• 青森県産 青天の霹靂: ¥5,298 (税込 ¥5,721)
• 青森県産 青天の霹靂 (無洗米): ¥5,448 (税込 ¥5,883)
• 北海道産 ゆめぴりか: ¥5,298 (税込 ¥5,721)
• 北海道産 ゆめぴりか (無洗米): ¥5,448 (税込 ¥5,883)
• 新米 姫: ¥5,148 (税込 ¥5,559)
• 秋田県産 あきたこまち: ¥5,048 (税込 ¥5,451)
これらの価格が示すように、品質の高い国産ブランド米は5kgあたり5,000円を超えるものが大半を占めます。これは多くの家庭にとって、決して気軽に手を出せる金額ではないでしょう。日々の食費を切り詰めなければならない状況下で、消費者がより安価な選択肢へと目を向けるのは、ごく自然な経済行動と言えます。
しかし、この国産米の価格設定は、次にご紹介する輸入品との競争において、極めて不利な立場に置かれていることを意味します。この価格差は、一体どのような未来を招くのでしょうか。
「カルローズ」の衝撃
国産米が品質とブランド力で勝負する一方、市場に強力なインパクトをもって投入されているのが、アメリカ産米「カルローズ (Calrose)」です。その存在は、単なる輸入品という言葉では片付けられない、まさに「衝撃」と呼ぶべきものでした。
スーパーの棚に整然と並べられた国産米とは対照的に、「カルローズ」は通路に山積みされ、その物量を誇示しています。この光景は、価格や量を重視する消費者層をターゲットにした、極めて戦略的な販売手法であることを物語っています。
さらに注目すべきは、その袋に記されたマーケティング文言です。単に「国産米と同じ系統のジャポニカ米」と記すだけでなく、「軽い食感でベタつかない」という特徴を打ち出し、「リゾット、カレー、チャーハンに!」と具体的な用途を提案しているのです。これは、白米として国産米と真っ向から勝負するのではなく、特定の料理カテゴリーにおいて日本の米を代替しようという、極めて高度な市場浸透戦略です。外国産米への心理的なハードルを下げ、日本の食卓へ巧みに「用途提案型」で入り込もうという意図が透けて見えます。
この物量と巧みなマーケティングによる攻勢は、健全な市場競争の範囲を超え、日本の稲作農業という基盤そのものを根底から揺るがしかねない脅威です。では、この状況をより大きな視点、すなわち国家の安全保障という観点から見ると、どのようなリスクが浮かび上がってくるのでしょうか。
食料自給率から見た国防上の懸念
スーパーでの米の陳列方法というミクロな視点は、日本の食料自給率、ひいては国家の安全保障、すなわち「国防」というマクロな問題へと直結しています。このつながりを理解することこそ、今、私たちに最も求められていることです。
安価な、あるいは特定の用途に特化した輸入米への依存が常態化すれば、何が起こるでしょうか。価格競争に晒されるだけでなく、「カレーにはこの輸入米」といった形で市場が細分化され、国産米の需要が多角的に侵食されていきます。結果、国内の稲作農家は次々と経営難に陥り、後継者不足に拍車がかかり、手入れの行き届いた美しい水田は耕作放棄地へと姿を変えていくでしょう。これは単に田園風景が失われるという感傷的な問題ではありません。日本の食料生産能力そのものが、不可逆的に失われていくことを意味します。
食料の大部分を海外からの輸入に頼るという状態は、平時においては効率的に見えるかもしれません。しかし、ひとたび国際情勢が緊迫化し、地政学的リスクが高まれば、その構図は一変します。輸出国の政策変更、天候不順による不作、あるいは紛争による輸送ルート(シーレーン)の遮断。こうした有事の際、日本は「兵糧」を断たれるという致命的な脆弱性を露呈することになります。
これは、国民の生命線を他国に握られることに等しく、単なる経済問題では断じてありません。自国民を養う食料を自国で確保できない国家が、いかにして独立を保ち、主権を守ることができるでしょうか。これこそが、スーパーの棚から見える、最も深刻な「国防上の懸念」なのです。このリスクを前に、私たちは何を考え、どう行動すべきなのでしょうか。
買い物かごの一票が守る未来
スーパーマーケットでどの米を買い物かごに入れるか。この日常的な選択は、私たちが思う以上に重い意味を持っています。それは、日本の食料安全保障、ひいては未来の国力に対して、私たち一人ひとりが投じる「一票」に他なりません。
もちろん、日々の家計を考えれば、価格は重要な判断基準です。しかし、その価格や商品の裏側にあるものを想像してみてください。少し割高に思える国産米の価格には、日本の美しい水田を維持し、食料生産基盤を守り、有事の際に国民の命をつなぐためのコストが含まれています。その価値を理解し、私たちの消費行動に反映させることが、今ほど求められている時代はありません。
スーパーの棚に映るこの静かなる危機は、消費者、生産者、そして政府が一体となって取り組むべき、国家的な課題です。今日、あなたが手にする一袋の米が、日本の農業と国防の未来を支える礎となるのです。


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