自民党と日本維新の会が、衆議院の議員定数を削減するための段取りを定めた「プログラム法案」を提出しました。この法案に対し、読売新聞は社説で「憲政の常道に反する暴論だ」と極めて厳しい論調で批判を展開しています。
社説は、政権を担う与党がこのような提案をしたこと自体に「見識を疑いたくなる」と、まずその判断力を問うています。そして、この法案が民主主義の根幹を合意ではなく、ある種の最後通牒によって強引に変えようとする「乱暴な法案」であると断じており、その手法に強い警鐘を鳴らしています。
「一年以内の結論」と「自動的な定数削減」
この法案がなぜこれほど厳しい批判に晒されているのかを理解するためには、その異例な仕組みを把握することが不可欠です。社説が指摘する法案の核心部分は、以下の3点に集約されます。
• 与野党各党が参加する協議会を設置し、選挙制度の見直しを含めて結論を出すという「1年以内」という厳格な期限設定。
• もし期限内に結論が出なかった場合、議論の経緯に関わらず自動的に定数を削減するという、前例のない条項。
• 削減目標が現行定数465議席の「1割を目標」とされ、最低でも45議席(小選挙区25議席、比例代表20議席)を削減すると、具体的な数字まで明記している点。
このように、一方的に期限を設定し、合意形成が失敗した場合の罰則として定数削減を課すという手法は極めて異例です。社説は、この手続き上の問題こそが、民主主義の根幹を揺るがすより深刻な問題に繋がると指摘しています。
民主主義の根幹を揺るがす手続きへの懸念
社説が最も強く問題視しているのは、この法案が孕む「手続きの軽視」です。選挙制度は、国民の代表を選ぶためのルールそのものであり、社説が「選挙制度のあり方は民主主義の土俵である」と表現するように、その決定プロセスは極めて重要です。
そのため、議員定数を含む制度変更には、特定の政党の思惑だけでなく「与野党の幅広い合意」を得て慎重に決めるのが当然の原則です。今回の法案のように、結論が出なければ自動的に変更するという手法は、熟慮と合意形成のプロセスを著しく軽んじるものであり、「立法府の権威を貶めることになりかねない」と社説は強く警告しています。
連立維持を優先した政治的背景の分析
では、なぜ自民党はこれほど問題の多い法案の提出に踏み切ったのでしょうか。社説は、その背景に連立政権を維持するための政治的力学があったと分析しています。
党内からも「乱暴すぎる」との反対意見があったにもかかわらず、自民党が法案提出を強行したのは、「身を切る改革」を党是とする日本維新の会の要求に応え、連立からの離脱を避ける狙いがあったからだと指摘されています。社説は、法案内容の問題点を認識しながらも「連立維持を優先」した自民党の姿勢を「ふがいない」と厳しく批判しています。社説は、この「危うい関係」を、長年政局や国会運営に細心の注意を払ってきた自民・公明両党の連立関係と比較し、現在の連立には統治に不可欠な慎重さが欠けていると示唆しています。
さらに社説は、この問題の根底にある力学そのものに警鐘を鳴らします。すなわち、多数の民意を反映しているとは言えない小政党が、連立における立場を利用して大政党を振り回し、民主主義の根幹に関わる重要課題の行方を左右するという状況こそが、「憲政の常道に反する」と断じているのです。
定数削減そのものへの疑問点
法案の手続き上の欠陥と政治的駆け引きを解き明かした上で、社説の批判は、より本質的な問いへと至ります。そもそも「議員定数の削減は改革なのか」という、政治的な通念そのものへの挑戦です。社説は、定数削減を自明の善とする風潮に、具体的なデータを挙げて反論しています。
1. 歴史的・人口比での比較 現在の衆議院の定数465議席は、日本の人口が7000万人余りだった終戦直後の466議席とほぼ同水準です。人口比で見れば、日本の国会議員の数は他の主要国よりも既に少ないのが実情です。
2. 国会機能への影響 現状でさえ、多くの議員が複数の委員会を掛け持ちしており、国会審議は多忙を極めています。これ以上の定数削減は、法案を慎重に審議する「法律の制定」や、政府の活動をチェックする「行政の監視」といった国会の重要な機能に支障をきたしかねない、という現実的な問題があります。
これらの指摘は、国民の代表を減らし、国会の機能を低下させる恐れのある定数削減を、安易に「改革」と位置づける主張そのものに根本的な疑問を投げかけています。
政治的都合が優先された「暴論」
つまるところ、読売新聞の社説が下した結論は、この法案が民主主義の理念ではなく、目先の政治的都合によって推進されているというものです。国民の代表を減らし、国会の機能を低下させる恐れのある政策を、合意形成という不可欠なプロセスを軽んじて強行すること。それこそが、社説が断じる「憲政の常道に反する暴論」に他ならないのです。

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