2026年8月29日、イランのセイエド・アッバース・アラグチ外相が共同通信の取材に応じ、米軍三沢基地(青森県)のF16戦闘機が対イラン作戦で中東に展開したとの報道について、「平和を愛する日本の人たちは米国の犯罪について、日本政府に説明責任を問うべきだ」と述べた。
「イラン攻撃は、基地が受け入れ国を守るためではなく、攻撃的な政策に使われていることを示した。三沢基地もその一例だ」との指摘である。
「対イラン作戦」の中身
この発言の背景にあるのは、2月28日に始まった米国・イスラエルによるイランへの軍事作戦だ。英国の国防・安全保障専門メディア「UKディフェンス・ジャーナル」は、三沢基地所属のF16が3月に12機、4月には米サウスカロライナ州ショー空軍基地所属機と合わせて6機、対イラン作戦のため中東に展開したと公開情報の分析に基づいて報じた。三沢基地の第35戦闘航空団は、敵の防空網を先制的に制圧する任務(SEAD)を歴史的に担ってきた部隊であり、今回の展開も同様の任務が疑われている。中東では佐世保基地配備の強襲揚陸艦や沖縄駐留の第31海兵遠征部隊なども一時展開しており、在日米軍の戦力が広く対イラン作戦に振り向けられていたことが明らかになっている。
見過ごせないのは、茂木敏充外相が4月9日の国会答弁で、今回の米軍によるイラン攻撃について日米安全保障条約に基づく「事前協議」は「行われていない」と述べた点だ。米軍の「移動」は事前協議の対象にならないとの整理だが、結果として在日米軍基地は事実上の出撃拠点となった。アラグチ氏が「説明責任を問うべきだ」と名指ししたのは、まさにこの構図である。
震災の恩を知る外相
アラグチ氏の発言の重みは、その経歴を知ると一段と増す。2008年から2011年まで駐日イラン大使を務めた同氏は、2011年3月11日の東日本大震災発生時、東京にとどまった。多くの国の大使館が退避する中、イラン大使館は閉鎖しなかった。同月24日には徳永久志外務大臣政務官を表敬訪問し、缶詰食料などの緊急援助物資の目録を手渡した。その際、2003年のバム地震で日本から受けた支援に触れつつ、類いまれな忍耐と能力を持つ日本国民は必ずこの困難を乗り越えられると確信している、という趣旨の言葉で日本国民を激励したと伝えられている。同年4月には大使夫人らが被災地・岩手県山田町を訪れ、炊き出しも行っている。
日本に対して明確に友好的な姿勢を示していた人物が、15年後に「日本政府に説明責任を問え」とまで言わざるを得なくなった。これは単なるイラン側のプロパガンダとして片付けられる話だろうか。
高市政権の外交に問われるもの
高市早苗政権の外交は、トランプ政権との個人的関係を前面に出し、対米協調を最優先にしてきた。憲法の枠内でできることは行うとの姿勢は示したものの、在日米軍基地が第三国への攻撃作戦に使われる実態について、国民への十分な説明や、米国に対する明確な説明要求が行われているようには見えない。
東アジアでは中国・ロシア・北朝鮮の脅威が指摘される中、在日米軍戦力が中東に振り向けられている現実は、抑止力の低下を招きかねない。にもかかわらず、基地受け入れ国としての主権と説明責任を正面から問う動きは弱い。
アラグチ氏の発言は、イラン側の立場から出たものであることは差し引いて受け止める必要がある。しかし、かつて日本に支援の手を差し伸べた人物が呆れた形で日本政府を批判する事態は、高市政権の外交が「同盟最優先」に偏りすぎ、日本独自の立場や説明責任を後回しにした結果ではないか、との疑問を残す。
平和を愛する日本国民が、米国の作戦に自国の基地が使われることについて政府に説明を求めるのは、当然の権利だ。友好的だった相手国の外相からまで指摘される前に、政権自身が説明すべきだったのではないか。
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