香川県高松市の郊外に忽然と現れる白い屋根と薄茶色の壁、舷窓のような丸窓を備えた巨大な船のような建物——丹下健三が設計した旧香川県立体育館(通称:体育館)は、戦後日本の近代建築を象徴する傑作の一つでした。
しかしニューヨーク・タイムズが報じた懸念通り、この名建築の運命は決着しました。2026年4月10日、解体工事が正式に開始されました。当初は2026年3月中の着工が予定されていましたが、住民説明会でアスベストや地盤沈下への懸念が相次ぎ、県は着工を延期。4月10日午前8時、まずは植栽の撤去から工事が始まりました。
現在の工事状況と今後の予定
着工日:2026年4月10日
初期作業:植栽撤去、池の景石取り外し(一時保管)
今後の工程:本体解体へ移行
完了予定:2027年9月頃
ニューヨーク・タイムズの報道で取り上げられた通り、2014年に構造上の問題で閉鎖されて以来、保存か解体かをめぐる議論が続いていました。香川県は耐震性の不足と倒壊リスクを理由に解体方針を貫き、10億円超の予算を計上して工事を進めています。
戦後復興の象徴が次々に失われる
ニューヨーク・タイムズによると、香川県立体育館が取り壊されれば、日本で繰り返されてきた近代建築の犠牲の最新事例となります。第二次世界大戦後の高度成長期に建てられた前川國男、坂倉準三、菊竹清訓、丹下健三らによる数多くの傑作が、老朽化・耐震基準・再開発を理由に失われてきました。
代表例:ホテルオークラ(谷口吉郎設計)、中銀カプセルタワー(黒川紀章設計)
これらの建物は、ガラス・鋼・コンクリートによる当時の最先端技術の結晶でありながら、伝統建築ほど保護されにくいのが実情です。
反対運動と地元の声
「旧香川県立体育館再生委員会」などの民間団体は、民間資金によるホテル転用計画を提案し、公金支出差し止めを求める住民訴訟を高松地裁に提起。現在も係争中です。
2026年4月27日の会見で、高松市の大西市長は「県の判断を尊重せざるを得ない」としつつ、「裁判も同時並行できちんと行われるべき」との考えを示しました。
建築史家の後藤治氏(元文化庁職員)は「政府が20年前の考え方で行動しているのは極めて残念」と指摘。県議の植田真紀氏も「未来の世代に伝える責任がある」と訴えています。
保存の成功例もある
ニューヨーク・タイムズが紹介した通り、全ての近代建築が失われているわけではありません。
代々木国立競技場(丹下健三設計):重要文化財指定、UNESCO世界遺産候補
伊賀市庁舎(坂倉準三設計):ホテルに再生成功
大分県立図書館(磯崎新設計):アートプラザとして転用これらは官民連携による保存・再生の可能性を示しています。
「新しさへの渇望」と今後の課題
ニューヨーク・タイムズの記事が指摘するように、日本人の「新しいもの好き」と地震大国としての安全優先が、近代建築の保存を難しくしています。解体による膨大な廃棄物という環境負荷も課題です。ナオミ・ポロック氏は著書『Vanishing Japan: Modern Architecture Gone but Not Forgotten』(2026年9月刊行予定)で、この状況を詳述しています。
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